専門職後見人としての行政書士 その1
成年後見制度とは?
認知症や知的障碍などのために、判断能力が十分に発揮できない方の日常生活について、本人の意思をできる限り尊重しつつ、支援していこうとする制度です。
判断能力が十分に発揮できないと、契約や法律行為、財産の管理などを自ら行うことが困難であったり、不必要な契約を無理やり結ばされたりしてしまう恐れがあります。成年後見制度は、本人の代わりに代理人として契約してあげたり、財産の管理をしてあげたりすることで、本人の利益を守るという制度であると言えます。
成年後見制度の基本理念
成年後見制度は高齢社会への対応と、知的障碍者・精神障碍者のための福祉の充実を目的として、「自己決定の尊重」、「残存能力の活用」、「ノーマライゼーション」の3つを基本理念としています。また、本人の利益の保護を実現するために、柔軟・弾力的な利用しやすい制度にしていこうとしています。
自己決定の尊重
後見人や保佐人・補助人(以下、後見人等)が本人の財産の管理・身上監護に関する事務を行うにあたり、本人の意思を尊重しなければならないとされています。後見人等は、本人の自己決定の尊重と本人の利益確保を念頭に置いて後見業務を行います。
残存能力の活用
本人の失われた部分にとらわれるのではなく、現在残っている能力に注目し、その残された機能を用いて、本人が自分らしい生活を送ることができるように考えます。
ノーマライゼーション
「障碍者を排除するのではなく、障碍があっても健常者と同様に、当たり前に生活できるような社会こそがノーマルな社会である」という考え方で、1960年代に北欧諸国で社会福祉政策の理念の一つとして採用された考え方です。
関連する言葉に「ユニバーサルデザイン」というものがあります。これは、誰にでも利用可能なように建物や環境、製品などを企画することで、障碍をもった人が生きていく、バリアフリー社会を実現するための基本原則であり、ノーマライゼーションを実現していくための手段であると言えます。
成年後見制度の特徴
禁治産・準禁治産という用語を廃止し、後見・保佐・補助へと衣替え
禁治産というのは「(家の)財産を治めることを禁ず」という意味です。これは大日本帝国憲法下の家制度に基づく考え方で、基本的人権を重視する日本国憲法の考え方に合いません。また「能力的に劣った人間」であるという誤った認識をもたれ、社会から差別を受けることもあったため、現在の成年後見制度では、禁治産・準禁治産という用語は廃止は廃止されて後見・保佐となり、新たに補助が加えられました。これによって、軽度の認知症・知的障碍・精神障碍等の場合でも成年後見制度を利用できるようになりました。
心神耗弱以外の事由による準禁治産宣言(浪費者等)については保佐とはみなされず、後見制度から除外されています。
戸籍への記載を廃止
偏見が生まれていた状況の改善のため、戸籍への記載が廃止されました。成年後見制度の利用に関しては、東京法務局の後見登記ファイルに記載されることになっています。
配偶者後見人制度の廃止、複数後見・法人後見制度の導入
夫婦の場合、配偶者が当然に後見人・保佐人になるものとされていた規定が削除されるとともに、複数の後見人等による支援や法人による支援も可能になっています。なお、法人としては社会福祉法人、NPO法人、一般社団法人等が対象となっています。
市町村長申立の導入
申立人(本人、配偶者、四親等内の親族等)がいない方の保護を図るために、市町村長に申立権が与えられています。実際の運用については厚生労働省による「成年後見制度利用支援事業」に基づいて、各市町村で制定される規則によります。
任意後見制度の導入
本人の希望を斟酌し、その実現を図る目的で、本人が健常な状態のうちに、自身の判断能力が衰えた際、「財産管理」や「身上監護」を担当してくれる任意後見人(契約時は任意後見受任者)とその者に委任する代理権の内容を契約で定めておく任意後見制度が導入されています。
次のページでは、成年後見制度の種類・しくみについて示します。